大輪。 彼女の微笑は、ゆったりと大きく、美しかった。大輪の花が、急に聞いたようだった。黒
い髪。ギリシャの彫刻のような横顔。深い眼差しの奥から、歌があふれてくるように見えた。彼女がそこにいると、そこは劇場になるのだ。アンナ・トモワ=シントウの出身地マケドニアは、地図で見ると、ギリシャのすぐ上にあった。母もオベラ歌手だった。父は物理学者で天文学者。意志が強くて、頑固で、とても繊細な人だったと、遠い目をした。その強い意思と静かな知性は、そのまま彼女がもらったものに違いなかった。彼女の歌は豪華だ。けれど彼女の表現は過剰にならない。自分の歌をじっと見つめているような、穏やかな情感がそこにはある。けれど、舞台に立つと、自分と役の境目がはっきりしなくなると言う。役の中に、自分が百パーセント溶け込んでしまえないと歌えない。その夜は、数っているその役が自分で、アンナの自分はそこにない。その時、私は私を忘れているのよ。大輪の花は、自分を超えて大きく咲くのである。本物のブランデーの香りがそうであるように。

グラスはもう歌ってる。
SUNTORY
BRANDY
V.S.O.P

NO.8197

広告主 サントリー
業種 酒類・タバコ
媒体 新聞
コピーライター 西村佳也
掲載年度 1989年
掲載ページ 49