買い物は、世界を救う。 1929年11月、高橋是清かく語りき。

例へば、茲(ここ)に、一年五万円の生活をする余力のある人が、倹約して三万円を以て生活し、あと
二万円は之れを貯蓄する事とすれば、其の人の個人経済は、毎年それだけ蓄財が増えて行って
誠に結構な事であるが、是れを国の経済の上から見る時は、其の倹約に依て、是れ迄其の人が
消費して居った二万円だけは、どこかに物資の需要が減る訳であって、国家の生産力はそれ
だけ低下する事となる。(中略)更に一層砕けて言ふならば、仮に或る人が待合に行って、芸者
を招んだり、贅沢な料理を食べたりして二千円を消費したとする。是れは風紀道徳の上から
云へば、さうした使方をして貰ひ度くは無いけれども、仮に使ったとして、此の使はれた金は
どういふ風に散ばって行くかといふのに、料理代となった部分は料理人等の給料の一部分と
なり、又料理に使はれた魚類、肉類、野菜類、調味品等の代価及其等の運搬費並に商人の稼ぎ
料として支払はれる。此の分は、即ちそれだけ、農業者、漁業者、其の他の生産業者の懐を潤す
ものである。而して此等の代金を受取たる農業者や、漁業者、商人等は、それを以て各自の衣
食住其の他の費用に充てる。それから芸者代として支払はれた金は転々として、農、工、商、漁業者等の手に移り、それが又諸般
産業の上に、二十倍にも、三十倍にもなって働く。故に、個人経済から云へば、二千円の節約
をする事は、其の人に取って、誠に結構であるが、国の経済から云へば、同一の金が二十倍に
も三十倍にもなって働くのであるから、寧ろ其の方が望ましい訳である。 
参考文献 高橋是清随想録(本の森
仙台)

NO.32446

広告主 JCB
受賞 一般部門賞
業種 金融・保険・公共・教育および学校
媒体 新聞
コピーライター 上田浩和
掲載年度 2011年
掲載ページ 119