niko and ...2018AW/カケル 404秒 (ファイルをめくる手。
春野:作画者の漫画のサンプル集。
細いラインで整頓された線が並ぶ。
上手いが、巷に溢れているようなもの。
高木:原作者はつまんなそうに
ファイルをパラパラとめくっていく)

春野:
(淡々と)原作読ませていただきました。
面白かったです。
作画の方は、
そのタッチで進められたらと思っています。

編集F:
原作の雰囲気が合いそうですね。
(テーブル席に座っている
編集Fと高木と春野。
明らかに気に入っていない表情の高木)

春野:
もしご意見やイメージの違いがあるなら
率直におっしゃっていただいたら

高木:
別にないです

春野:
…?

高木:
僕が言うことじゃないし。
(少し居心地の悪い春野。
アイスコーヒーを飲む。
高木は殆ど見ないまま
パラパラとページをめくる。
高木の手が止まる)

高木:
これは

春野:
あっそれは
(春野のファイルの
巻末のページを見ている高木)

春野:
かなり初期に描いた作品で、、

高木:
筆ですか?

春野:
あ、はい。筆なんでちょっと…
(描くのが難しいのだ、
と言う言い訳をしたい)

高木:
いいですね

春野:
ハハ、いいですか。雑で恥ずかしい。
筆はもうやってないんです、
面倒が多くて

高木:
ふーん。勿体無いな
(筆で描かれた漫画を眺める高木。
線の一つ一つに勢いがある。
高木の目に見えるその漫画は、
イキイキと動き出して見える)

#2:
高木の作業場(昼)
(破いた原稿を空に放り投げ、
紙吹雪のようにして眺めている
高木のインサート)

#3:
春野のアトリエ(昼)
( LINEの通知。開いてみると、
高木からの動画。
自撮り動画の中で高木は、
挑発的に原稿をピリピリと破いている。
原稿に描かれているのは、筆ではなく、
細いラインの整頓されたタッチの漫画)

春野:
はあ?????
(次々に原稿を破く高木の様子を、
動画編集のアプリが
軽快な音楽と共に垂れ流す。
破いた原稿を空に放り投げ、
紙吹雪のようにして遊ぶ高木。
電話をかける春野)

春野:
どうゆうことですか!?(怒り)

#4:
高木の作業場/春野のアトリエ(昼)
…電話の会話

高木:
(聞いている)

春野:
走らないんです、筆、昔みたいには。
…勢いがないと。
どうしても描きたいって…
欲望がないと。
ああ、漫画が描きたい、て…

高木:
つまらねーと

春野:


高木:
言ってんだな?俺の原作がつまらねーと。

編集F:
あっ高木くんきっとそういうことでは…
(オロオロ)

春野:
(覚悟を決めて)…そうよ。

高木:
…(ふつふつと湧き上がる
楽しい気持ちが抑えられない)

春野:
ずえんっっずえん面白くない。
ちょーつまんない。

高木:
どこがだ?

春野:
全部

編集F:
春野さん??

春野:
何このお約束展開、バッカみたい。
聞いたことあるセリフばっかで、
何にもグシグシ刺さってこない!
何一つ感じない!!

高木:


春野:
こんなの描きたいわけがないじゃん
(高木は楽しくてたまらないと言う表情)

高木:
はい、了解です。…待ってろ!!!
(カフェを走って出て行く)
#6:
高木の作業場(夜)
PCのメールに送られてきた
新しい原稿を見ている。

春野(電話の声):
つまんない

#7:
春野のアトリエ(夜)
(自転車で街を飛ばしながら
考えている高木)

高木:
なんだなんだ!!そうかそうか!!
(思いつき、いきなり自転車を降りて。
スマホに書き留める)

#8:
自転車(昼)

#10:
春野のアトリエ(夜)
(棚にしまってあったらしい、
墨と筆の入ったボックスが
床に出ている。
机に向かって、筆で、
女の横顔のラインを描く。
爪を噛みながらうろうろしながら。
耳にしてたイヤホンを外し、
チェアに座って書き始める)

#11:
高木の作業場(夜)
(机に向かって描いている春野。
主人公の女のイメージ、
筆で描かれている。
次から次へと、ポーズを変えて、
女を描き続ける春野。
集中して書き続けている高木。
ジタバタせず、黙々と)
ー時間経過ー
(高木、あまり寝てない様子。
電話をしている)

高木:
おーす、
今朝送っといたけど…読んだ?

#13:
高木の作業場(昼)

#14:
春野のアトリエ/高木の作業場(昼)
…電話の会話

春野(電話の声):
描いてる

高木(電話の声):
…ん?

春野(電話の声):
もう描いてる!

高木(電話の声):
描いてんの?…筆で?

春野(電話の声):
そうよ!だって、この子…
(春野の手元、
主人公の女が漫画の中に
どんどん描かれていく)

春野:
…勝手に走り出すんだもん!
(主人公の女が走り出す。
荒削りな毛筆のタッチを活かした
アニメーション。
モノクロ。
女の先には
猛烈な勢いで自転車が走っている。
自転車の男が差し出した手を取ると、
主人公の女の足が宙に浮く。
高台の公園のような場所から
二人空中へ飛び出す)

#LAST:
高木の作業場(夕)
(春野が訪れる。
高木はいつもの場所で
座って待っている)

高木:
出来たか!
(笑顔で手を差し出す高木)

春野:
出来た…!
(手にしていた新しい原稿を、
高木に差出す笑顔の春野。
二人の手が、同時に原稿を握りしめる)

S:
であうにあう
niko and ...
(たくさんの鳥たち、
眼下には街並みが広がっている。
空中を回転しながら飛んでいく女は
やがてマンションの屋上へ着地し、
実写の春野に変わる)





NO.2019415

広告主 アダストリア
受賞
業種 デパート・スーパー・専門店(流通)・繊維・ファッション
媒体 WEB
コピーライター 野澤幸司
掲載年度 2019年
掲載ページ 386