牛すき鍋膳/あったか牛すき鍋膳 861秒 妹:
父さん、寒いよ…

兄:
よし。食べよう!

兄・妹:
いただきます!

父:
まだお肉が煮えてる途中でしょうがーーーーっ!

店員:
あ、もう煮えてますよ

父:
あ、そうなのか

兄・妹:
いただきまーーす

父:
まだ固形燃料が燃えてるでしょうがーーっ!

店員:
いや、これね、あの燃やしつつ食べるものなんでね

父:
お、そうなのかい、なかちゃん

店員:
ん?ん?ん?あの、誰がなかちゃんですか。
あの、吉村ですからね、はい

兄・妹:
いただきまーーす

父:
まだ玉子をといてるでしょうがーーっ!

店員:
ちょっと、ちょっとうるさい!
あのー声が大きいですから、うん

父:
お…

店員:
お、ではなくて。あの、言いたいだけでしょ、それ。
子供達がお腹すかせてんだから
早く食べさせてあげなさいよ

父:
純、蛍…。お腹…すいてんのか…

兄:
すいてるからここに来たんです

妹:
寒い。蛍寒いよぉぉ

店員:
うん、寒くはないけどね。
ここ暖房効いてるし。そんな厚着してるしね

父:
よし、食べよう。
吉野家の…牛すき鍋膳…食べよう…
食うなら今しかねえーーー!
食うなら今しかねえーーーーーーっ!

店員:
うるさいですから、あの本当に

父:
おう

店員:
おう、ではなくて。
あの皆さん静かに食べてますからね。

父:
いやでもねなかちゃん、なかちゃん

店員:
なかちゃんじゃない…

父:
おいら、おいらのうちは、
おいらがこれを言わないと
誰も食べ始めることができないんだ

店員:
めんどくせえ家だな。
ほんでなかちゃんじゃなくて、吉村だからね

兄:
母さん…
この店員さんはなかちゃんじゃないわけで

店員:
うん、
つまんないこと言ってないで早く食べなさいよ

父:
よし…食べましょう

三人:
いただきます

店員:
はーい

父:
んーー

兄:
旨い

妹:
うん、美味しい

父:
んーーー

兄・妹:
ふっふっふ

父:
んー

妹:
んーー、あったまるー父さん

兄:
母さん。牛すき鍋膳、寒い冬には最高なわけで…

父:
あなたたちがそんなに喜んでくれて、
父さん頑張って作ったかいがありました

店員:
いや、我々が作ったんですけどね

父:
固形燃料がずっと燃えてるから、
ずっとアツアツで食えるなんて、
最高ですね

店員:
はーい、そうですね。
うん、ほんとほんとそれは良かった。良かった。
あー今日はあれですか?
北海道からいらっしゃったんですか?

父:
いえ、近所から

妹:
歩いて3分です

店員:
あ、そうですか。こういう格好してるとね、
あのー北海道の人かと思っちゃうよね

妹:
父さんが北の国から大好きなんです

店員:
あーじゃあ富良野に移り住んだらいいのに

父:
富良野は…寒いから…。雪…苦手…

店員:
そんなやつは北の国からのファンとは言えないよ

兄:
母さん。この店員さんのツッコミが厳しいわけで

店員:
それはナレーションで言うやつでしょ。
なんであなたはオンで言っちゃうのさっきから、
母さん母さんって

父:
なかちゃん、なかちゃん

店員:
なかちゃんじゃないよ

父:
許してやってくれよ。まだほんの子供だから

店員:
え?え?いくつ?

兄:
まだ25なわけで

店員:
いや立派な大人だよ

妹:
23です

店員:
あんたもな。
いい大人がなんでそんな格好してんのよ

兄:
母さん。店員さんのツッコミがきついです

店員:
はい、すみませんね、はい。ごゆっくり

父:
さあツッコミが厳しい店員さんが
向こうに行ったから、
美味しく頂こう

兄:
父さん、あの…相談があるんです

父:
なんですか。改まって

兄:
僕…役者になりたいんです!

父:
…役者?

兄:
実は今…小劇場の、
自動車コンクリートという劇団にいまして

父:
自動車コンクリートですか

兄:
はい。略して、ジドコン

父:
ジドコン

兄:
そしてこの間、
初めてドラマに出してもらったんです。
ブラックジョーカーというドラマの医者の役で

父:
ドラマに出たなんて、すごいじゃないですか

兄:
その演技を評価されて…
アットファーストという芸能会社に
誘ってもらったんです

父:
父さん、芸能の世界は全然詳しくないから。
ナベプロくらいしか知らない

兄:
そして実は…僕、もう結婚しているんです!

父:
あー!あー!結婚?お相手は…

兄:
お寺の住職の娘さんです

父:
まあ、
お寺の娘さんなら悪い子はいないと思いますよ

兄:
どうか!役者の道と結婚を、許してください!

父:
そうですか…

妹:
父さん。実は私も女優になりたいの!

父:
蛍までっっ!

妹:
私…実は今、密かにアイドルやってて

父:
アイドルって密かにできることなんですか?

妹:
芋洗坂フォーティーナイナーっていう
アメフトのコスプレして歌うグループなの

父:
ほう、そうですか。よくわからないけど、
蛍はかわいいから当然センターですよね?

妹:
ううん、クォーターバック

父:
それはそれで…要

妹:
でも…アイドルでいまひとつ芽が出ないの。
写真集出してもらったけど、全然売れなくて…
同じメンバーの黒石さんの
10分の1しか売れなかった。
でもお芝居なら自信があるの!
広瀬すずより上手い自信があるの!

父:
あー!聞きたくない、あー!
何か今、思い切った、
随分思い切った発言をしたように
父さんは感じたのですが、
父さんその人知らない

兄:
アリスの妹です

父:
ううん、その人も知らない。
あの、
何かいまのくだりは関わってはならない、
においがする

妹:
お願い!女優、やらせてください!

父:
そうですか。
あなたたちが自分自分で選んだ道、
父さんがつべこべ言う筋合いではありません。
ただこれだけは、これだけは言わせてください。
脚本に書かれた台詞は
ちゃんと覚える役者になってください。
例えば本番中に台詞を忘れて、
ウェーイ!ウェーイ!
とにかく大きな大きな声で乗り切ろうとする
そういう役者に、
最低な役者にはならないでください。
しかも大きな声て乗り切ろうとする
大きな声で乗り切れません大体。
忘れた台詞は忘れてるわけですから。
それはNGですから。
忘れた台詞は忘れた台詞ですから。
大きな声では、
大きな声で大きな声で乗り切ろうとする
そういう役者にはならないでください。
しかも大きな声を出すだけでなく、
ウェーイって言って
ウェーイタタンタタラタタン…

兄:
ふふ

父:
じゅーん!
その場で思いついた
妙なトリッキーな動きでもって、
あの誤魔化そうとする、
そういうふざけた
最低な見苦しい役者にはならないでください。
あなたたちは。
あの、
大人なんだから
ちゃんとしましょうということが
言いたいわけです。
いいですか、あと監督からダメ出しされている時、
監督からずっとダメ出しされてる時、
ずっとちんちんを書くのはやめましょう。
これ本当にやめましょう。
ちんポジ、ちんポジを直す、
修正する機会は別にあります。
別に人あらわせず、
何も監督からダメ出しされている時に、
何も監督からダメ出しされている時に
ちんポジを修正する必要はありません。
そんな、最低な役者には絶対になっちゃダメです

兄・妹:
はい!

兄:
そんな、最低な役者には絶対になりません。

父:
ほぉ!あと、もうちょっとありました。
あの、雲の上の人の役をやる場合が
あなた方にも生じる可能性がございますので、
その時のために言っておきますと、
あのー雲の上の役を人をやる時、
あのこの役酔っ払ってる、
酔っ払ってるぐらいがちょうど良くね?つって。
酔っ払ってるぐらいがちょうど良くね?つって。
逆に面白くね?
つってこの役。
この役…どこ見てるんですか?
どこ見てるんですか?
ちゃんと真面目に聞いてください。
あの、この、この、
この役はだって
逆逆に逆に酔っ払かしてるぐらいが
ちょうど良くね?つって。
で、あの朝まで飲み、
ほぼ酔っ払った状態で現場に行き、
挙句、面白いことが何ひとつもできなくて、
大惨事はやめてください。
もう、ほんで監督にマジで怒られる。
本当にやめてください。
あとあの撮影が終盤になるにつれ、
夕方早い時には5時くらい、
もしくは4時くらいに芝居のことはさておき、
家に帰ってからのあの晩酌のことの方が気になる。
それであの、近くの焼き鳥屋に撮影の合間、
まだ撮影終わってないのに、
焼き鳥屋にあの電話して、
テイクアウトの焼き鳥のテイクアウトの注文をする。
あの大体あの
2時間後くらいにあの撮影が終わると思うから、
それ見越して焼いといてって。
皮、皮、砂肝、タン、ハツ、ねぎまを各々一本ずつ、
全部塩でつって。
その電話をしてるのも、
偶然にも本当ねえ悔やまれるんだけれども、
デブメガネ監督に見つかって、マジギレされる。
これもやめてください。
私の、私のっていうか恐らくその時も、
あのちんちんをかいていたと思います。
ちんちんはやはりかいていたと思います。
ちんポジを直す修正する機会はまた
別にありますから。
あとなんなら晩酌…
じゅーん!じゅーーーーーん!
聞いてください。純。
これ大事な話なんです、これ実は。
かなり大事な話なんです。
そんな役者になったら、父さん許しません!

妹:
そんな役者さんがいること自体、信じられない!
私、本番の時はお芝居のことしか考えない。
当たり前のことです。

父:
はーー!そうですね。それは、そうですね。
ですからあの、
そういう風にならないようにあの二人は
あの頑張ってください。
あの決してTwitterをまとめた本をあの出して
ちょっと小銭を稼ごうなんていうことは
考えないでください

兄・妹:
はい、考えません

兄:
Twitterの本出すなんて、
役者がやることじゃないよな

父:
ほーー!

兄:
なあ蛍

妹:
邪にも程があるよ

父:
邪!?
はーはー父さんちょっともう息ができない。
落ち着け、
ちょっと父さんもうちょっとぼーっとしてきた。
おーそうですか、そうですか。
そんな父さんから、お前たちにこれを…

兄:
千円札に、泥が…

父:
意図的につけました…
泣かないでください、泣かないでください。
せっかくの牛すき鍋膳が冷めてしまいますから

兄・妹:
ありがとうございます

父:
食べよう、うん、食べよう

店員:
あのー純くん、あの蛍ちゃん、五郎さん。
あの早く食べてくれないとこれ冷めちゃうから

父:
お、お、なかちゃん…
あの、おいら…名前…茂

店員:
ん?

兄:
僕は邦夫なわけで

妹:
絵里子です

店員:
ん?ん?やだ、え、本名でもないの?

父:
嘘をついて済まなかった、なかちゃん

店員:
なかちゃんじゃないからね

父:
あ、なかちゃん、なかちゃん、なかちゃん。
あのこいつら、役者を目指すんだってさ。
門出を祝ってやってくれ

店員:
ああ、そう。あーじゃあねえ、自分の見た夢をね、
あのー本当に
こう天才的に面白いなあって思う夢でもね、
まあそれをTwitterでねこうダラダラつぶやくような
そんな迷惑な役者にはならないでね

父:
はっ!

兄・妹:
はい!

父:
ほんとね、あのー原作のある作品は、
しっかりと原作を読んでから望みましょう

兄・妹:
はい!

父:
うん、ちょっと父さん本当にすごくあの、
切ない気持ちになってきた

妹:
どうして?

父:
わからない

NO.2019363

広告主 吉野家
受賞
業種 食品・飲料
媒体 WEB
コピーライター 福田雄一
掲載年度 2019年
掲載ページ 364