大日本除虫菊 水性キンチョール 金鳥ラジオ小説「父子水」第三回 260 M:
テーマ音楽♪~

NA:
金鳥ラジオ小説「父子水」第三回
出演
大滝秀治
岸辺一徳
これは、ひとつ屋根の下に住む、二人の男やもめの物語である。

SE:
蜩の音

息子:
父さん、そろそろ帰りましょうか。

父:
・・・・・帰らない!

息子:
もう、日が暮れます。足下があぶなくなるから。

父:
・・・・・やだ!

岸部さんモノローグ:
今日は、母の月命日である。
父は、母の墓の前に来ると長い。
墓石に向かって、あれやこれやと話しかけるのだ。

M:
♪~
(父、墓石と会話している)

父:
ほら、おまえの好きな笹団子・・・・もってきた。
うんうん。二人とも、元気だ。
こっちは、年々暑い。
そうそう、知ってるか?キンチョールも今は水性なんだぞ・・・・。
お前生きてる頃「ルーチョンキ」ってコマーシャル好きだったなあ。
うん。うん。
ところで、きょうは何を食った?ああ、そうかい、ふうん・・・・・

息子:
父さん、そろそろ・・・・

父:
おい、母さんは今日の晩飯、焼き茄子だったらしいぞ。
うちもそうしよう。

息子:
(ややうんざりして)天国に焼き茄子があるんですか。

父:
・・・・誰がボケナスだ!

岸部さんモノローグ:
父は最近、めっきり耳が遠くなった。目も悪い。
つい指摘できないのだが・・・・・今日も、隣の相撲取りの墓に手を合わせていた。
糖尿病で死んだ、関脇である。

(寺の住職、通りがかる)

住職:
お参りですか。

息子:
どうも。

住職:
御精がでますな。

父:
ああ、ご住職。
いつも、うちの家内が・・・・・大変、お世話になっております。

M:
♪~

岸部さんモノローグ:
父は、母の最期を見とっていない。世は高度経済成長期、いざなぎ景気のまっただ中。
働き盛りの男は家庭のことなど省みないのが当たり前だったのだ。
母の容態が急変した後、父は、さる社運を賭けた取引をまとめる為の接待に出席していた。
母が息を引き取った後に病院に現れた父は・・・・・

過去の父の声(エコーボイス):
(息荒く)かあさんは・・・・・おい、かあさんは・・・・・ヒック
かあさん・・・・は・・・・

岸部さんモノローグ:
まだ頭にネクタイを巻いていた。
そんな父を、私は長い間ゆるすことができなかった。

♪:
~フェードアウト

SE:
ヒグラシ

父:
こうして、手を合わせると、向こうの声がきこえるんだ。
そりゃ道理だ。
鉱石ラジオより、墓石のほうがいい。でかいからな。

岸部さんモノローグ:
父は自信たっぷりにそう言う。
罪滅ぼしをしたくとも、
そんな風に自分にいいきかせることしか、できないのだろう。

SE:
ヒグラシ

父:
おい、そろそろ行くか。母さんも寝る時間だ。

息子:
はい。

SE:
足音(砂利を踏む)

父:
しかし・・・・どうも妙だな。

息子:
何がです。

父:
さっき、おれが供え物をあげたろ。

息子:
ええ。

父:
そのとき、母さんが「ごっつぁんです」なんて言ったんだ。
そういう冗談をいうやつじゃなかったんだが。
はやっているのかな?あっちではそういうのが・・・・・・。
「ごっつぁんです」・・・・?

SE:
足音

岸部さんモノローグ:
どうやら・・・・齢を重ねて、初めて聞こえだすものもあるらしい。
私も父ぐらいの歳になれば、母の声が聴けるようになるだろうか。

M:
テーマ音楽♪~

NA:
金鳥ラジオ小説「父子水」次回へ続く。
出演
大滝秀治
岸辺一徳。
この番組は、金鳥ホームページkincho.co.jp
でもお聴きいただけます。

NO.20107

広告主 大日本除虫菊
受賞 TCC賞
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 ラジオCM
コピーライター 直川隆久
掲載年度 2005年
掲載ページ 31