昨今の流行か、妙にアンティック
なインテリアで統一された店だった。
蓄音機から”モンテカルトの一夜”が流れている。
私の前へうやうやしく「角」を置いたマスターが、
得意気に言った。「こいつは最高です。サントリーの新
製品です。」へたな冗談だ。レコードが終わる。隣の会話
が耳に入る。栗島すみ子だ、入江たか子だ、夏川静江
だ……と言い合う声。そのたときだ、何かが変だと気が
付いたのは。壁のひめくりが昭和十二年になっている。
まさかと思ってカウンターの端にあった新聞を取る。
”歌え戦勝行進曲””事變下の神宮體育大會”頭が
熱くしびれて来た。今夜はどうかしている「お勘定」
と席を立つ。「一円五十銭!」千円を一枚置き「つりは
いらん」と飛び出す。そして、数日がった。ある夜、
どうにも気がかりで、再び足を向ける。が、消えている。
見あたらない。しかし、まちがいはない。この場所。あの
ボトル。昭和十二年本邦新発売。高級ウイスキー「角」。 「角」年貳拾和昭賣發新

いつものボトル。日本のウイスキーの原典。
サントリー角瓶

NO.14211

広告主 サントリー
業種 酒類・タバコ
媒体 新聞
コピーライター 仲畑貴志
掲載年度 1977年
掲載ページ 58