邂逅。 指揮とは、紙切れにすぎない楽語から音楽を掴み出すことだ。マエストロは静かな口調でそう言った。音楽は講面の中に既に存在している。スコアを見ると、頭の中に音楽が響いてくる。そして指揮者とは、その響きと同じものをオーケストラによって創り上げてゆく仕事なのである。どんな風に響いてくるのですか、と訊ねたら、中に書いてある通りに響くのだと笑った。十一歳の時、ウォルフガング・サヴァリッシュ少年は、やがて後の運命の砦となるミャンヘン国立歌劇場で初めてオペラと出会った。フンバーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」だった。そこで少年は、必ずオペラの指揮者になると心に誓った。決意というよりそれは確信に近かった。その時彼は、音楽と契約を交わしたのだ。――それ以来ずっと、私の耳は私の音楽を聴いている。音楽の聞こえてこない時間はない。いつも、いつでも、こうしているたった今も 絶えず音楽は鳴り響いている。私の体の中で。だから私は、レコードは聴かない。情熱が、静謐な香りになって言葉から立ち上がっていた。まるで時を経たモルトが、クリスタルのグラスに注がれたようだった。
グラスはもう歌ってる。
SUNTORY
WHISKY
ROYAL
NO.8196
| 広告主 | サントリー |
|---|---|
| 業種 | 酒類・タバコ |
| 媒体 | 新聞 |
| コピーライター | 西村佳也 |
| 掲載年度 | 1989年 |
| 掲載ページ | 48 |