リレーコラムについて

トレーナーになった日

辻中輝

2023年5月。

 

「トレーナー、やってもらえませんか。」

部長と、局内の人事担当に呼び出されて出社した僕は、

トレーナー業務をお願いされていた。

 

「僕でいいのでしょうか。」

すごく不安な気持ちになった。

僕の中のトレーナーのイメージは福井さんだったからだ。

 

毎日の勤務入力さえちゃんとできない自分に。

クライアントの前で、

屋内のことを「やない」と言ってしまう自分に、

トレーナー業務が務まるのだろうか。

 

「ちなみに、どんな子が下につくのでしょうか。」

「藤原慶太くんという人です。とってもいい子ですよ。」

 

藤原くん?あれ?なんか聞いたことある。

そうだ。先週、新入社員たちとの飲み会で仲良くなった子だ。

カラオケに行って、肩を組みながら一緒に長渕剛を歌ったあの子だ。

 

一週間後、藤原くんを紹介された日。

僕は、あの日のカラオケがなかったかのように振る舞った。

自分なりのギラリとした目つきで、静かにひとことだけ話す。

 

「よろしく。」

そう。なぜか僕は福井さんのキャラで、

トレーナーになろうとしてしまっていたのだ。

 

「あ、よ、よろしくお願いします!」

あの時、藤原くんは、不思議そうな、不安そうな、変な顔をしていた。

 

ごめんね。藤原くん。

 

でも、必死だった。

先輩たちからもらったものを、次の世代に渡さないと。

そんな想いで溢れていた。

 

トレーナーは、本当に大変だ。

すべての打ち合わせに新入社員の企画をみる時間がついてくる。

(一緒に仕事をしているみなさん、付き合って頂き本当にありがとうございます。)

 

肘あまり皮に神経が通っているか、通っていないのか気になる男のCM。

おじさんが女子高生のフリをしてSNSアカウントを運用するCM。

 

とんでもない量のとんでもないCM企画を、一つひとつ見ていく。

ここをもっとこうしたらいいCMになるんじゃないかな。

もっとこういう構造で考えてみようか。

 

先輩から教えてもらった技術や、想いを、

思い出して、言葉にして、一つひとつ伝えていく。

 

そうしているうちに、広告という歴史の、

大きな流れの中にいる自分を意識するようになった。

 

もちろん広告は、

世の中のためにあり、クライアントのためにあり、商品を売るためにある。

 

でも、広告に憧れ、いい広告を作りたいと願い、

寝る時間を削ってでも企画をしてしまうこの情熱は、

まぎれもなく、今まで広告を作ってきた先輩たちが渡してくれたものだ。

 

「いい広告ってなんだろう。」

それを考えつづける理由がそこにある気がした。

 

 

―――――――――――――――

 

 

一週間ありがとうございました。

実は、2年連続トレーナーをすることになりまして、

今では、ふたりの弟子がいます。

ふたりめの弟子は、とにかくテンションが高い堀さん。

顔合わせの日に、

「辻中さん、私マジでぐいぐい来てもらって大丈夫なんで!」

と言われたのは衝撃でした。

藤原くんも、堀さんも、のびのびと成長してくれていて本当に嬉しいです。

いつか、ふたりのリレーコラムを読める日が来るといいな。

楽しみにしています。

 

ということで、来週からは、

岡野草平さんにバトンを渡します。

 

岡野さんは、トレーナーではないのですが、

伸び悩んでいた若手時代に、

CM企画を厳しく教えてくれた師匠であり、

飲み会の楽しさを教えてくれた最高の先輩です。

 

お忙しい中、

バトンを受け取っていただきありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

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