金鳥ロマン小説 ピンクのよろめき
第五話<臼井ピン子> 「ピンクの蚊取り線香もあるらしいよ~」
 娘の学校情報に、いても立ってもいられなくてスー
パーへ急いでる途中だった。男の人のアゴに思いっき
り頭突きをかましてしまったのだ。
---よりによって・・・。
 同乗した救急車の中、救急隊員の質問に応える小俣
拓也は、五歳下の三十八歳、職業は作曲家であること
がわかった。今日は美しいピンクのポロを着ている。
わたしは小俣さんの指を盗み見た。
すらりと長いキレイな指に結婚指輪が光っている。
 狭い車内で、いろんなことが頭の中を、蚊取り線香の
ようにぐるぐると渦巻く。大事じゃなければいいんだけど。
 救急車ってお金かかるのかしら。そうだお見舞金を
用意しなきゃ。十万でいいかしら・・・。万が一なにかしら
の後遺症が残るなんてことがあったら・・・。夫には内緒の
口座にいくらだろうか。
 それにしても奇麗なピンク・・・。と思っていたら小俣さ
んと目が合って慌てた。

 唐突に、検査室のドアが開いた。
「奥様ですか?」
「はい?い、いいえ」
「残念ですが・・・」
 と、女医がマスクをはずすとわたしは
「えっ?」「あっ!」
 と続けて声にならない声を出した。
「広子です」
 思い出した。小俣広子。・・・奥様ですかって??
「ピン子さん・・・だったのね。お久しぶりだわね」
 広子さんは口の端を少し上げるだけの笑顔をつくった。
目は笑っていない。
「ピンクのお揃いでどういう訳だが存じませんが、ロク
なことありませんわよ」
「いや、あの・・・」
「あの人とはとっくに別れました」
「あ・・・すみません」
 何故か謝っている。やはりこの女は苦手だ。ピンクは
ただの偶然なのに。
「残念ですが・・・」
   ------------------------------------
 ピン子は、広子の続く言葉に絶句した。
(次週につづく)

NO.87517

広告主 大日本除虫菊
受賞 ファイナリスト
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之 直川隆久
掲載年度 2015年
掲載ページ 135