朝日新聞デジタル/プロメテウスの罠
防護服の男 第四話 282秒 NA:
ギリシャ神話によると、
人類に火を与えたのはプロメテウスだった。
火を得たことで人類は文明を発展させた。
しかし、落とし穴があった。

NA:
朝日新聞、プロメテウスの罠。
シリーズ、防護服の男、第四話。
        
S:
プロメテウスの罠 シリーズ防護服の男 第四話

NA:
菅野みずえの家にいた25 人の人々は、
その後どこに向かったのだろう。
その一人、谷田(やつだ)みさ子はいま、
愛知県春日井市の市営住宅で避難生活を送る。
みずえの遠い親戚だ。
同じ浪江町の小野田地区に家がある。
みずえの家からは約20 キロ海寄りで、
福島第一原発から10 キロ以内の距離にある。       
3 月11 日午後、自宅で地震に襲われた。
翌12 日早朝、隣の双葉町に住む次女一家が
「ここは危ないから逃げるのよ」と駆け込んできた。
朝9時、家を出た。
みずえの家がある津島方向に向かう国道114 号はすでに大渋滞。
国道6号に出て北に進み、南相馬市小高区の長女宅に向かう。
ここで1号機の水素爆発を知り、さらに全員で津島を目指した。
みずえの家に着いたのは夕方6時をまわっていた。
他の避難者が炊き出しの握り飯を食べ終わったところだった。
一日中走り回って疲れていたが、避難者の会議には出席した。
共同生活ルールのうち、使用済みトイレットペーパーを
段ボールに捨てるように提案したのは、みさ子だった。
以前メキシコ旅行をしたときの経験を思い出したからだ。
しかし、ほっとしたのもつかの間、白い防護服の男たちの警告を
みずえから聞かされた。
     
NA(男):
なんでこんなところにいるんだ!
     
NA(男):
なんでこんなところにいるんだ!頼む逃げてくれ!
     
NA(男):
放射性物質が拡散しているんだ!
   
NA(別な男):
何をしている!早く車の中に戻れ!
        
NA:
生後1カ月の赤ちゃんを抱えた次女一家と7人と、          
長女一家4人を、夜中に逃がした。翌13 日夕、みさ子も発った。
行くあてはなかったが、「少しでも遠くに」と郡山市を目指す。
        
S:
郡山市では、避難して来る人たちの放射能測定をしていた。
        
NA:
郡山市では、避難して来る人たちの放射能測定をしていた。
みさ子に測定器が向けられると、針が大きく振れた。
   
NA(みさ子):
死んじゃうの?私、死んじゃうの?
   
NA(測定係):
落ち着いてください
   
NA(みさ子):
私、死んじゃうの?
        
NA:
その晩は車で寝た。15 日朝、地震当時は相馬市にいた夫と
携帯電話でようやく連絡が取れた。会津若松市で合流し、
新潟県経由で、22 日、姉が暮らす春日井市に逃れた。
国や東京電力から的確な指示が一切ないまま、12 日間の逃避行だった。
「原発は安全。」これまで、そんな説明を何度も聞いていた。
それを前提とした生活がすべて崩れた。
しかし、原発のおかげで住民が恩恵を受けてきたのは事実なのだ。

NA(みさ子)+S:
原発だけ悪いなんて、私たちはいえないのよ

NA:
プロメテウスによって文明を得た人類が、
今、原子の火に悩んでいる。
福島第一原発の破綻を背景に、
国、民、電力を考える。

NA:
朝日新聞、プロメテウスの罠。つづく。

S:
朝日新聞DIGITAL

NO.87236

広告主 朝日新聞社
業種 マスコミ・出版
媒体 WEB
コピーライター 高崎卓馬 外﨑郁美
掲載年度 2014年
掲載ページ 420